メスが入る



 口腔外科に、先週の細胞診検体の結果を聞きにいった。だけど、残念ながら前回採取した細胞の検査では、口の中の病変が良性なのか異形成病変なのかはっきりとは判断ができなかったそうだ。じゃあどうするのかといえば、次はガンなのか否かをはっきりさせるために、舌の一部を切除して生検というのをやるらしい。正常な箇所と病変を呈している箇所とを少しずつ切除して、顕微鏡で調べるのだという。

 先生はできる限りはやく検査をしたいというので、早速来週の月曜日に生検の予約を入れた。来週頭には、口内にメスが入るのか…診察室では冷静に説明を聞いていたのだけれど、生検の同意書にサインをして、病院から一歩でた途端、ぞわぞわと怖いような、不安なような気持ちになった。それと同時に、いろんな疑問が湧いてきて、なんで先生の前で思いつかないんだよ、とげんなりする。


 2017年の5月に中枢性尿崩症を発症してから、この2年間、自分の体には想像もしていなかったことがたくさん起きている。だから正直にいうと、今この瞬間、自分の体に何が起きてもおかしくないとは思っている。覚悟とういうほど強い気持ちではないのだけれど、諦めというほどネガティブな気持ちでもない。何が起きても、受け止められるだろうという落ち着きのようなものだろうか。いやいや、そこまで落ち着きはらってもいないか。なるようになる、とでも言えばいいのだろうか。


 このまま帰宅するのもなと思い、病院の横のスタバで一服することに。ソファ席に腰掛けて、病院でのことをパートナーにメールで報告しながら、さっきの気持ちについて考える。
 不安だし、怖い。まぁ、なにが起きてもなんとかなるだろうという気持ちもある。なにより、これらのことが今自分の身に起きているということが、なんだか不思議で、非現実的で、夢なんじゃないかとさえ思える。でも、鏡をみたら舌は白くなってるし、触れると微かに痛いから、夢じゃない。そもそも、病気のことだけじゃない。今自分が生きているという事実さえも、まるでフィクションのように思えてくる。気を抜いたら、目の前にカチンコが現れて。

 そういえば、少し前にブラジルの母が腓骨を骨折したと聞いた。そのときも、ほんの少しは驚いたものの、そうなの、とあまりに冷静で、あまりにも淡々としていて、あとからあの反応はひどいんちゃうの、自分?と、反省したのだった。そのときの気持ちと、今の気持ちはとても似ている。他人事のような。とはいってもね、気持ちって行ったり来たりするものだから、やっぱり心の中では不安があるんだと思う。どこか、気持ちを麻痺させて生きているような気もしている。生き残るための処世術か、自己催眠か。



 もやもやした気持ちはなかなか晴れなくて、スタバをでて新宿徘徊。幸い、今日はそんなに暑くなかったから、まるで迷路のような新宿砂漠の地下道をすいすい歩く。新宿東口の近くにあるオカダヤに行って、新しく作る枯葉色のスモッキングワンピースの足りない材料を買う。

 DMCの25番の刺繍糸を2色(紺色/濃緑)と、黒蝶貝の小さな8ミリボタンを10個、ミシン針11号を2パックと、9号を1パック、まち針、ずっと欲しかった文鎮を2つ、パートナーのリネンジャケット用の水牛ボタンを1つ。気づいたら5000円を超える買い物になっていて、ひやりと汗をかく。(文鎮の色がネイルの銀色と同じで、小さなことだけれどテンションあがる。いやはや、単純である。)

 アルタ4階、5階の生地館も一通り見てまわる。松露色のレーヨンワッシャーを3メートル分買おうかと思ったけれど、今月は医療費がかさんでいること、仮にも休職中だということ、11月のポルトガル旅行のこと、もしかしたら大きな手術をやるかもしれないことを考えて、おいおいと思いとどまって布の購入は見送った。


 帰りも新宿駅の中を、また、すいすいと人の波を掻い潜るように進む。まるでスケーターにでもなった気分で。一雨来そうだなと思いながら、街ゆく人をしっかりと観察する。イヤホンからは、McClenneyの “ SOS ”が流れている。なんだか泣きそうになって、なんだよ、やっぱり助けられたいんじゃんか、って思ったらほんの少し気持ちが楽になった。

 the Fearも名曲…

Comments

Popular Posts