『停電の夜に』を読んで


 週末、借りていた本を返すために図書館へ行った。自己啓発系の本を借りたいパートナーが本を吟味している間、目に止まったジュンパ・ラヒリの『停電の夜に』を読み始めた。

 表題作の「停電の夜に」は、アメリカに暮らす、インド系移民の夫婦の話。コミュニケーションがうまくできないことで、すれ違って、どんどん心の距離が開いていくふたりの姿が、淡々と語られる。誰しもが経験したことがあるような、苦いすれ違い。

 彼らが暮らす通りでは、夜に数日間停電することになるのだけれど、久方ぶりに蝋燭の灯りを灯して、ふたりで食事をとりながら、お互いがこれまで言わずにいたことを告白し合う。

 言わずにいることと、言えずにいることって、語られないという点では同じなのだけれど、心の中の重さは違うよなと思う。

 深読みかもしれないけれど、妻は子どもを死産してしまった際、本当はもっといろんなサポートを夫に求めていたのかもしれない。ただ、それを口にできなくて、苦しんでいたんだと思う。死産の痛みを共有できないことで、彼女の中で、何かが確実に枯れていったんだと思う。
 その一方で、夫も妻にどうやって歩み寄って、彼女をどうやってサポートしたらいいのかわかりあぐねて、結果的にお互いが対話を避けて、死産の苦しみから立ち直れないまま、開いてしまった溝を埋められなくなってしまったのかも。


 妻は、停電の時間を使って、最終的に自分が言いたかったことを口にできるけれど、その言葉で夫を傷つけてしまう。でも、彼も妻に対して消えないような引っかき傷を残す。言えずにいたこと、あえて言わないでいたこと、それらを吐露しあって、傷つけあって、そこで物語が終わる。電気が戻ってきたあとの彼らは、むき出しになったその傷と向き合って、先に進まないといけない。やるせない、コミュニケーション不全の行き着く先。

 たった30ページ前後の物語なのに、読後はずっしりとした重さが残って、しばらくコミュニケーションの本質について考えてしまった。なかなか物語から抜け出せない余韻。表題作以外にも、読んでみたいなと思ったので、近々図書館できちんと借りて読み直したい。

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